気づいたら、どこかの部屋らしきところにいた。所々木の床に穴があり、歩くのには少し危ない。近くの扉が開き、顔見知りが何か言って僕を呼んでいた。
何を言っているのかは判然としない。そちらのほうに寄っていこうとすると、身体がふわりと浮いた。飛ぶというよりは、宙に浮くというほうが当たっている。扉をくぐると、そこにはもう誰もいなかった。部屋の中から感じていたより、相当大きな建物の中にいるらしい。回廊のような、薄暗くて長い通路だった。
しばらく宙を漂っていると、同じく宙を浮いている人とすれ違った。通路に沿って進んでいると、宙を浮いている人と地面を歩いている人がいる。宙を浮いているのは生きている人で、地面を歩いているのは死んでしまった人らしい。そのことにはあまり違和感がなかった。ただ、さっきの顔見知りは地面を歩いていたような。
階段にまで辿り着いた。正装した子供たちが階段の踊り場に二列に並んで立っている。僕を見ているようだけど、なんで見られているのか分からない。そのまま階段を上ろうとしたけど、気味が悪いので止めた。階段から浮き上がって下りようとすると、軍服を着た人が階段を歩いて昇っていった。やっぱり僕は行ってはいけないようだ。
どこをどう進んだかは分からないけど、ホールのような開けた場所に出た。無機質な木と鉄の色から、少し緑と青が混じって見える。空?と思ったけどちょっと違うみたいだ。けど緑は木の葉で、まばらに木が生えているようだ。建物の中のはずなのに。
木陰で漂っていると、誰かに足を引っ張られた。白い子供が僕の足を引っ張っている。彼は何か伝えようとしているみたいで口を忙しなく動かすんだけど、僕には何を言っているのかさっぱり聞こえない。振り切ってどこかに行こうかとも思ったけど、可哀想なのでやめた。
すると僕がどこにもいかないことを理解したのか、彼は嬉しそうに手招きをする。その方向に目をやると、いつの間にか和服を着た少女が二人、僕たちのすぐ傍に佇んでいた。姉弟なんだ、と直感が告げた。子供が嬉しそうにその二人の姉たちに何かを説明すると、彼女らは微笑んで僕に手を差し出してきた。握手?と思うと同時に、子供が僕の手を掴んでその少女らの差し出した手を握らせた。
「温もりが欲しかったんです」 少女の一人がそう言った。気がした。浮いていたはずの身体はいつの間にか地べたに座っていて、両手で少女らの手を握り、子供が僕の座った上に乗ってきていた。意味は分からなかったけど、そうするのがいいんだと思った。
そこで突然、子供の身体が淡く光り出し、泡となって消えてしまった。僕は驚いたけど、少女らは微笑んだままだった。続いて少女らも同じように淡い光を放ち始め、同じように泡となって虚空へと消えていった。「ありがとう」と、最後にその呟きが聞こえた。
気づいたら、また一人になっていた。いつもがまたやってきた。見回した辺りが、少し寂しさを感じさせる。
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