論文を書かない日が無いというくらい、毎日が時間に追われていた生活。研究の息をつく暇が無いというくらい、〆切が重なる日々。そんな人間的とはとても言い難い生活にだんだんと嫌気が指しはじめ、ついに管理人は南の島まで逃亡を図るのであった……。
(※ネット環境になかったため、ノートPCに残した記録を基に書いています)
2月18日
そんなわけでは全く無いのでありますが、南の島はハワイ・ヒロに居ります悠です。勿論、よつばと!のジャンボの如く、ある日突然思い立ってハワイにやってきたわけでもありません。単なる学校の研修の手伝いという形で来ております。また奨学金やら研究費やらでタダで行ってるんだろーがオイ、というのは誤解でありまして、7割がた自費です。謝 金として幾分かの手当は出るものの、正直キツイっす。なぜこのクソ忙しい時期に、自腹でハワイに来ているんだろうか。俺が答えを知らないので、誰にも分かるわけがない。
まぁ、研修の目的は火山関係で、研究の専門とは全く違ったものなんですけどね。そういう意味では気楽に参加してるともいえるし、単なる骨休めとも言う。
ハワイ到着初日。セスナ機にて、空中遊覧飛行の旅。空から溶岩の様子を眺めるのですよー。睡眠不足で体調が芳しくない身体にセスナの機動と振動はめがっさきつかったですが……。
2月19日
ハワイ二日目。土砂降りの雨です。ハワイといえば青い空と白い雲という常夏のイメージがあるわけですが、ヒロに至ってはむしろ熱帯のジャングルを思わせる気候です。年間降雨量が4000mmにもなる(東京の倍程度)ことを考えれば、まぁ不思議ではない天気なんですが。実際に熱帯雨林もありますし。
そんな中開始した研修なんですが、火山の話でわりと有名なキラウエア火山に行って参りました。粘性の少ないマグマで、溢れ出すように流れるのがこのハワイの火山での特徴です。朝はキラウエア火山ビジターセンター、昼からは実際にマグマが流れた溶岩原を歩き回ることに。まぁ歩き回るとは行っても数十年前に流れた溶岩ですから道路も舗装され、溶岩原の脇まで車で行くことが出来ます。なもんで雨もウィンドブレーカーがあれば十分でしたが。
ハレマウマウ火口から噴き出す噴煙。2008年の春に突如として噴火したらしく、未だに風下は二酸化硫黄や硫化水素の濃度が高い模様。
年間降雨量に相応しい熱帯雨林地帯。
熱帯雨林内にある、溶岩で形成されたトンネル。"lava tube"というらしい。断熱材として働き、熱を放出しないように溶岩を効率よく運ぶことができるとか。
樹木を溶岩が覆って形成する溶岩樹形と、粘性の低い溶岩の表面が押されるように変形して出来る縄状溶岩。
明日は、天候が良ければ実際に今も流れている溶岩を観に行くことに。悪けりゃ暇つぶしでしょうか。火山以外にほぼ何もないヒロで、暇をつぶすものがあるかどうかは分かりませんが。
2月20日
ハワイ3日目。日程の都合で、今日はひたすら溶岩原や火口を見て歩いて調べて、の繰り返しです。面白くなさそうに聞こえますが、いやしかし、実際目で見て触りながら溶岩の構造・性質について説明があると分かり易いし面白い。ハワイでは粘性の低いパホイホイ溶岩と比較的粘性の高いアア溶岩があるようです。単純なその比較だけでも色々と分かりますが、他に年代や流路、色、溶岩が形成した構造物など、さまざまな背景を伝える要因を調べると、当時どのような様子で溶岩が流れたのかをリアルに感じることが出来るわけでして。専門でもないですが、おそらく一般人なら通り過ぎてしまうであろうポイントでも「観る」目が養われます。ただ単に凄いねーと感嘆を述べるだけじゃ芸が無いじゃないか。
黒く光る溶岩原と、今にも流れ出しそうなくらいに躍動感溢れる溶岩。
溶岩と海が織りなす芸術、溶岩の橋。ハワイ島は溶岩によって海岸線が年間10Mほど南〜南東に向かって伸びているんだとか。
誰が見てもそう思うであろうことですがそうではなく、元々このあたりは道路があったはずなんです。この溶岩は2005年頃に流れ出したものらしく、完全に標識が埋没してしまっています。
崖の向こうから溢れだしてくる溶岩が目に浮かびます。この崖は断層によるもので、東西に数十kmという長さに渡って断層が続いています。
まぁそんな感じで最終日を迎えるんですけども、いよいよ明日は今現在も流れる溶岩を見ることができる(かもしれない)わけで、最後の最後まで見どころばっちりですよ。日没直後くらいの薄明りがベストで、赤く光る溶岩を写真に収めることができるかも。
2月21日
ハワイ4日目。今日はメインイベント、流れる溶岩の観察です。前日の夜に話があったらしく、ガイド付ならなんとまだ固まっていない溶岩の採取も可能だとのこと。事前研修のムービーでも同じ話があがっていたのですが、特別な許可が必要とのことで諦めていたんですけどそのガイドさんが話を通してくれるとのこと。是非もなく参加ですよ。生?の溶岩を取らずして何が溶岩か。
そんな感じで最終日のイベントが決まったわけですが、時間の都合で午前中は若干空きができるように。さりとてそんなに暇があるわけでもないので、土産物を買いがてらレインボーフォールに行ってきました。落差50メートルはあろうかという巨大な滝を日光が照らすと虹がかかるのでレインボーフォール。虹はハワイのシンボルマークでもありんす。が、残念ながら午前中は曇りがちで虹を見ることは出来ませんでした。
午後はひたすら溶岩原の行軍です。片道歩いて2時間という距離をえっちらおっちら歩いていきます。ところによってはまだ新しい溶岩のため慎重を期す箇所もあり、ガイド付の有難味がよくわかります。新しめの溶岩はまだガラス質が残っていて、凄く綺麗なんですわ。きらきら輝いている。これが年月の経過とともに、徐々に光沢部分が剥がれ落ち、白く燻んだ色になります。2週間前に流れたばかりだという溶岩原を見て、初めて溶岩が美しいと思いましたね。うん、こりゃ素晴らしい。
その後、実際にまだ流れている溶岩まで辿り着き、その流れる様やハンマーでつついての採取を行います。めがっさ熱い。暑いじゃなくて熱い。顔が灼ける。そんな感じの熱です。流れる溶岩の温度は一千度というくらいですから、近付くだけでも一苦労ですが、それでも自分で溶岩を採取してみると感慨も一塩。しかも、ガラスがそのまま残っているからめちゃくちゃ綺麗に輝くんです。黒い宝石かと思うくらい。ハンマーの採取のしかたによって形が大きく変わるので、溶岩アートとか言って茶化していましたが、いや実際アートだと思うわ。うん。
さらに海に流れ込んでいる溶岩を観察し、二度目の流れる溶岩の採取・観察を行って撤収。帰り際には、海へ流れ込む大量の溶岩が大きく噴煙をあげている様も観察し、無事5時間をかけて帰還です。さらに日没後にも、火影といって噴煙に溶岩の赤色が写り込む様を見て締めくくり。
ちなみに採取して持って帰ってきた溶岩。若干欠けてしまっている部分もありますが、ハンマーでつついたのが分かるような形状が残っていたのでそれで妥協しておくこととします。いやはや、正直に言えばこの火山見学研修に期待していたところは少なかったのですが、予想以上に面白い行程と結果で大いに満足した次第です。冷えて固まった溶岩を眺めるのも味がありますが、綺麗さと面白さでは断然まだ流れている溶岩ですな。火山学の楽しさと奥深さを改めて知った思いでありんす。
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