韓国気象庁が「予報的中率0%」の珍記録達成 ...(recordchina.co.jp)
記事は日本の話ではないですが、単に以前よりも速いスーパーコンピュータ、いわゆるスパコンと最新の気象予報モデルを導入したからといって予報が良くなるわけではないという結果について、誤解を恐れずさくっと解説してみる。
天気予報を行うためには、まずスパコンを使って気象予報モデルを動かし、その結果を翻訳して個々の天気予報を作成するという手順になります。ほんの数十年前は天気図とにらめっこだったんですが、今はスパコンで気象予報というのはもうやって当然という世界なんですね。そのほうが一人の人間の経験的な予報よりも、予報の精確性向上、人によらない予報結果、予報を間違えた時の検証がやりやすいわけでして。日本でいう気象予報士というのも、まずこのスパコンによる気象予報結果を読み込むところから始まります。
このスパコンの気象予報というのが曲者で、コンピュータがやっているんだから正確なんだろうと思われがちです。が、スパコンで動いている気象予報のプログラムは人間が作ったものです。プログラムミスもある可能性はありますし、当時はそれで良かった式も、後になって見直されることなんてざらにあります。そういったコンピュータ上のプログラムとして当たり前の事実の他に、数値気象予報特有の難しさだってあります。例えば、日本の上空を流れる偏西風の動きなどは時間的にゆっくりとしたもので、一日程度であればさほど強さや位置が変わったりするものではありません。一方、雨を降らす雲の発達などは時間的にもっと早く、積乱雲などは1時間程度で盛衰します。そういった多種多様の時間スケールで動いている天気をコンピュータの有限な計算資源で再現するには、計算したいターゲット時間スケール、明日明後日の天気予報などを決めて、ある程度簡略化してコンピュータに読み込ませる必要があるんですね。
この簡略化する過程で、どんな現象を再現したいか、という人間の意思が入ってきます。一般的な天気予報では、明日雨が降るかどうかということに焦点をあてられることが多いので、夏の時期なら夕立などがターゲットですね。夕立をもたらすのは積乱雲なので、積乱雲が発達しやすい環境であれば雨が降りやすくなる、という情報をコンピュータ上で再現”したい”というわけです。なので、それに合わせた設定というものを人間が作ることになります。さて、積乱雲が発達しやすい環境というのはどういう状態か。教科書的には下層が暖かく湿っていて上層が冷たく乾いており、上昇気流ができるような状態をさしますが、具体的な数値は程度問題で、地域によって結構、値が異なったりします。なので最新のスパコン、最新の気象予報モデルを導入しても、その地域性にあわせて設定を”チューニング”しないと、うまく天気予報ができません。物理法則にしたがって天気が変わるのは言うまでもないのですが、その物理法則をどういう風にコンピュータに読み込ませるかという手法に関しては無限にあり得るので、気象モデルはその時々によって性能が変わります。計算機の資源も有限なので、計算できることも限られますからね。
結果として気象モデルは、新しいスパコン、新しい予報メソッドの実装、バグの修正によって、昔良かった設定も合わなくなることがあり、再チューニングが必要になります。昔から使っているよくチューンされた気象モデルは、最新の気象モデルよりも良く天気予報ができるということがあるのは、このためです。思うに、冒頭の記事にある新しいスパコンと気象モデルの導入によって前よりも精度が下がったのは、そのあたりにあるんじゃないですかね。英国の気象モデルを導入したということなので、おそらくUK Met Officeの気象モデルなんでしょうが、アレは欧州の地域特性に合わせたチューニングがなされているはずなので、そのまま持ってきてもすぐに予報精度が向上しないというのは十分考えられるかと思います。試験的に実際の天気予報をしてみて、以前よりも予報精度が上がったかどうかを確認しておけば、もうちょっとチューニングが必要だということにも気付けたかと思いますが……。スパコンの気象予報結果が良くなければ、その後の手順でもあまり良くならないだろうというのは無論のこと。たぶん、スパコンの世代交代で予報精度が下がったのは、人材的理由よりもこっちのが大きいんじゃないですかね。
新しいものを使いこなすのは、古いものをそのまま使うよりも、よっぽど面倒なことなんです。ちゃんと使いこなせれば、新しいものは新しいなりの利点があるんですけどねー。
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